マグネシウム合金は実用構造用金属のなかでも軽量な材料です。しかし、「軽いからアルミニウムより優れる」と判断するのは危険です。本記事ではマグネシウム合金の特性、AZ31B・AZ91D・AM60Bの違い、JIS規格、鋳造・鍛造、材料選定を鉄・アルミ・チタンと比較し、肉厚・リブ・ねじ締結・腐食対策・切削安全まで解説します。
はじめに|マグネシウム合金とほかの金属の違い

マグネシウム(Mg)の密度は約1.74 g/cm³。代表的なMg合金の密度は約1.74~1.84 g/cm³で、アルミニウム合金(約2.7 g/cm³)より軽く、普通鋼(約7.85 g/cm³)の約4分の1の重さです。軽量なノートPC・カメラ・ロボットの筐体、自動車部品などに使われます。純Mgのままでは機械部品に必要な性能を得にくいため、Al・Zn・Mnなどを添加した合金を利用することが一般的です。
| 材料 | 利点 | 注意点 |
|---|---|---|
| マグネシウム合金 | きわめて軽量、ダイカストによる薄肉複雑形状、良好な振動減衰性 | 低い剛性、耐食対策、締結・摺動、切りくず火災 |
| アルミニウム合金 | 軽量、加工・表面処理の選択肢、流通性 | Mgより重いが一般に剛性が高い |
| 鉄鋼 | 剛性・強度・コストのバランス | 重量と腐食 |
| チタン合金 | 高い比強度・耐食性 | 材料費・加工費 |
| 銅合金 | 電気・熱伝導性 | 重量・コスト |
化学的・物理的特性|重さ・電気・熱・腐食
密度と軽量化|同じ体積ならアルミの約3分の2
代表値としてAZ91Dは約1.81 g/cm³、AZ31Bは約1.77 g/cm³、AM60Bは約1.80 g/cm³。アルミニウム合金2.70 g/cm³、純チタン4.51 g/cm³、普通鋼7.85 g/cm³と比較できます。同じ体積の部品ならAZ91Dはアルミの約67%の重量です。ただし同等のたわみを実現するにはリブ・厚みなどの設計変更が必要です。
熱伝導率・導電性|合金によって異なる
マグネシウム合金の熱伝導率は鋼種・組成によって大きく異なります。AZ91Dはおおむね50~80 W/(m·K)、AZ31系は約70~100 W/(m·K)程度の代表値が見られます。一方、純アルミニウムは約230 W/(m·K)、純銅は約390 W/(m·K)です。電気伝導率も銅・アルミより低く、大電流導体には一般に向きません。放熱筐体は接触熱抵抗、塗膜、表面積と放熱経路も計算します。
熱膨張・磁性|精密な組立で確認する
Mg合金の線膨張係数はおおむね25~27×10⁻⁶/Kで、鋼(約12×10⁻⁶/K)、チタン(約9×10⁻⁶/K)より大きい傾向です。たとえばα=26×10⁻⁶/K、長さ200 mm、温度差60℃なら、熱伸びはΔL=αLΔT=約0.31 mm。異材ボルトや樹脂カバーと組み合わせる場合は熱膨張差を考慮します。Mg合金は一般に非強磁性です。
腐食と電食|表面処理と水の逃げ道が必須
Mgは電気化学的に活性な金属で、塩水・結露・異種金属接触に注意が必要です。アルミやステンレスのボルトと直接接触した部分では、電解液が存在するとMg側のガルバニック腐食が進行することがあります。適切な化成処理、陽極酸化、塗装、絶縁ワッシャー、シーリング、排水経路を設計段階で組み合わせます。表面処理後の傷や組立工程で露出する金属面も確認してください。
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機械的性質|強度・靱性・延性・加工性・価格
強度と比強度|材料名だけで保証値は決まらない
AZ91Dは代表的なダイカスト用Mg-Al-Zn系合金、AM60BはMg-Al-Mn系で延性・衝撃性能を活かす用途に用いられます。AZ31Bは板・押出材などの展伸材で利用されます。引張強さは工程、厚み、鋳巣、材料方向、調質によって大きく変わり、同じ合金でも鋳造品と圧延品を数値だけで単純比較できません。代表的な範囲は約200~300 MPa程度の例がありますが、設計許容応力は規格保証値・実測値と安全率に基づいて決めます。
剛性|ヤング率はアルミニウムより小さい
Mg合金の縦弾性係数(ヤング率)は概ね44~45 GPa、アルミニウム合金は約69~72 GPa、鋼は約200~210 GPaです。同じ寸法・荷重ならMg合金はアルミニウム合金より大きくたわむことがあります。曲げ剛性はE×I(E:縦弾性係数、I:断面二次モーメント)で評価し、単なる板厚追加よりリブや箱形断面への変更が有効な場合があります。
靱性・伸び・衝撃特性|AZ91DとAM60B
一般にAZ91Dは鋳造性と強度、AM60Bは相対的に高い延性・衝撃吸収性を求める用途で比較されます。ただし鋳造欠陥、板厚、温度により性能は変わります。人に近い設備の破壊リスクを検討する場合、延性・衝撃値・疲労寿命を部品条件で確認してください。
クリープ・耐熱性|高温で荷重を受け続ける部品
多くの汎用Mg-Al系ダイカスト材は高温でクリープ(時間とともに進む塑性変形)が問題になります。一般に100~150℃級以上の持続負荷を想定する場合は材種・使用時間・締結力低下を詳細に検討し、耐熱Mg合金や別材料への変更を含めて評価します。明確な最高使用温度を一律に設定することはできません。
切削加工性と発火リスク|加工しやすいが安全管理が要る
Mg合金は一般に切削抵抗が比較的小さく加工速度を高めやすい材料ですが、細かい切粉・粉じんは着火・燃焼の危険があります。工具の鋭利さ、適切な切削条件、切粉を溜めない集じん・回収、設備ごとの消火計画が重要です。油剤の使用可否、水系/非水系の選択、粉じんの取扱いは材質と設備に適合したメーカーの安全指示・リスクアセスメントで決定します。
火災の注意:マグネシウム火災には適合する金属火災用消火剤(Class D等)が必要です。水・二酸化炭素・通常の粉末消火器などを安易に使用すると危険な場合があります。火災時は訓練済み担当者・消防の手順に従い、無理な初期消火を避けてください。
価格とリサイクル性|素材単価より完成品コスト
Mg合金の素材単価は一般に汎用鋼より高く、アルミより高くなることもありますが、材料・調達条件や大量ダイカストの生産性によって費用は変化します。購入素材、金型、後加工、塗装、防食、工具、検査、歩留まり、回収再資源化まで含めた総コストを比較します。合金ごとの分別・異物混入・溶解時の酸化対策がリサイクル品質に重要です。
JIS規格の読み方|AZ31B・AZ91D・AM60Bを比較
材料記号の読み方|AZはAlとZn、AMはAlとMn
AZは一般に添加元素のアルミニウム(A)・亜鉛(Z)、AMはアルミニウム(A)・マンガン(M)を示します。例えばAZ91は概ねAl 9%、Zn 1%を表す呼称、AZ31は概ねAl 3%、Zn 1%の系統です。末尾のB・Dは材種改良などの識別であり、必ずしも強度等級や調質を意味しません。材料記号とJIS製品規格番号は別物です。
マグネシウム合金の主なJIS製品規格
| 規格番号 | 対象と用途 | 確認事項 |
|---|---|---|
| JIS H 4201 | マグネシウム合金の板・条 | 材質・板厚・機械的性質・調質 |
| JIS H 4202 | マグネシウム合金の継目無管 | 形状・寸法と材質 |
| JIS H 4203 | マグネシウム合金の棒・線 | 加工方法・寸法と材質 |
| JIS H 4204 | マグネシウム合金押出形材 | 押出形状・供給状態・強度 |
| JIS H 5203 | マグネシウム合金鋳物 | 鋳造品の品質・材料特性 |
| JIS H 5303 | マグネシウム合金ダイカスト | ダイカストの化学成分・機械特性など |
※JIS H 4201~4204は2025年改正の版もあります。規格の正式名称、現行版、材種記号・寸法区分・規定値はJISC/日本規格協会の最新原文を参照してください。H 5303等について改正審議情報と発効済み規格を混同しないよう注意します。
代表合金の性能・適用の違い
| 合金 | 主な製法 | 特徴 | 用途例 |
|---|---|---|---|
| AZ31B | 圧延・押出・加工材 | 比較的良好な成形性と軽さ。温間成形を検討 | 薄板筐体・軽量部材 |
| AZ91D | ダイカスト | 良好な鋳造性と強度、薄肉一体成形 | 電子機器のケース・カバー |
| AM60B | ダイカスト | AZ91Dより延性・衝撃性能を重視する候補 | 衝撃負荷が考えられる構造品 |
| ZK系 | 押出・鍛造材など | Zn・Zr系。比較的高強度の候補 | 高比強度部材 |
図面で指定する内容|合金だけでなく製法も記載
重要部品は「AZ91D」のみで完結させず、製品規格、製法(ダイカスト/押出/鍛造等)、供給状態、寸法許容差、表面処理、検査、材質証明を指定します。特に鋳造品は採取位置や試験片条件によって性能が異なり得るため、必要性能を完成品で検証します。
製造方法の違い|鋳造・鍛造・圧延・切削

鋳造・ダイカスト|薄肉で複雑な筐体に適する
溶融したMg合金を鋳型に流し込む鋳造のうち、金型内へ高圧で充填するダイカストは大量生産の薄肉・複雑形状に適しています。AZ91DやAM60Bが代表的です。ガス巻込み、引け巣、表面欠陥、肉厚急変、湯流れ・湯境(コールドシャット)、残留応力を評価します。機械加工が必要な座面・ねじ穴には適切な加工代を設定します。
鍛造|高負荷部品では組織と疲労に注目
鍛造は固体に圧力を加え塑性変形で成形します。Mgは常温で塑性加工が難しい合金が多く、温間・熱間鍛造を利用します。鍛流線・結晶粒・熱処理の管理で強度や靱性を改善する可能性がありますが、常にダイカストより高強度と断定できません。設計値は実際の材料・製法に基づきます。
圧延・押出|板金筐体・長尺部材に適する
AZ31Bなどの展伸材は板・棒・押出形材として使用します。Mgは結晶構造に起因して常温の成形性に制約があり、曲げ半径や温度条件を材料供給元と確認します。押出品は材料方向による機械特性の違いにも注意します。
切削・穴あけ・ねじ加工|加工条件と火災対策
素材やダイカスト品から切削で精度を仕上げる場合、変形しやすい薄肉形状のクランプ、バリ、表面キズに加え、切粉回収・着火リスクを管理します。切粉を設備周辺に蓄積しない計画を立て、加工液・集じん装置・保管方法は設備と素材に適合する安全基準に従います。
| 比較 | 鋳造・ダイカスト | 鍛造 | 圧延・押出+切削 |
|---|---|---|---|
| 形状の自由度 | 複雑な薄肉ケースに強い | 型・塑性変形の制約あり | 板・長尺材、試作加工に強い |
| 量産性 | 量産で大きなメリット | 型費とロット数次第 | 小中量・試作に向く |
| 品質上の注意 | 鋳巣、湯回り、肉厚差 | 割れ、組織、方向性 | 成形限界、異方性 |
| 主な用途 | 筐体・ケース | 高負荷軽量部品 | パネル・ブラケット |
選定するには?|部品別の活用例と設計のコツ

Step 1:軽量化の目標値と要求条件を決める
①質量削減目標 ②使用荷重・衝撃・疲労 ③許容たわみ・振動 ④腐食環境 ⑤温度とクリープ ⑥電気・熱・表面処理 ⑦生産数と原価を整理します。軽量化の効果を同じ体積だけで比較せず、完成品としての剛性・安全性・組立費用を含めます。
Step 2:肉厚・リブ・ボス|薄くするほど良いわけではない
Mgは剛性が低いため、薄い平板をそのままアルミニウムから置き換えるとたわみが増えます。リブ、曲げフランジ、箱形断面を使って断面二次モーメントを高める設計が有効です。ダイカストでは肉厚をできるだけ均一にし、急激な肉厚変化・厚いボス・鋭い内角を避け、フィレットと必要な抜き勾配をつけます。リブ厚さ、最小肉厚、勾配の数値は製法・設備・材質・寸法ごとに金型メーカーと協議します。
Step 3:ねじ・圧入・締結|座面のへたりに注意
繰り返し締結や高い軸力がかかるねじには、適切な長さのねじかかり、インサート、座金、ボス補強などを検討します。鉄系インサートは異種金属腐食対策を同時に設計します。温度変化やクリープによる軸力低下、局部面圧、圧入時の割れを検証し、トルク値は実機試験で定めます。
Step 4:腐食・表面処理|設計形状から対策
塗装・化成処理だけに頼らず、凝縮水や塩水が残る隙間を作らないことが重要です。ボルト周囲の絶縁、金属露出部の保護、ドレン、異種材料と表面処理の組合せ、補修性を評価します。塩水噴霧試験だけで実使用寿命を単純に換算するのは避けましょう。
Step 5:用途別の材料選定
| 用途 | 候補 | 選定理由と確認点 |
|---|---|---|
| ノートPC・カメラ・計測装置の筐体 | AZ91D | 軽量・薄肉一体化。剛性・鋳造欠陥・塗装・電食 |
| 耐衝撃が必要な軽量部品 | AM60B | 延性やエネルギー吸収を比較。部品形状で試験 |
| 軽量板金カバー | AZ31B | 板材成形・温間加工・割れ対策 |
| 長尺軽量ブラケット | Mg押出材、アルミ押出材 | リブ断面・曲げ剛性・コストを同条件比較 |
| 高精度軸・摺動軸 | 鋼、必要に応じ表面処理 | Mgの耐摩耗性・剛性を考慮し別材を優先 |
| 高温で軸力を維持するケース | 耐熱Mg合金・アルミ・鋼等 | クリープと熱膨張を検証 |
| 屋外・海沿いの装置筐体 | 処理付きMg材/アルミ/SUS | 異種金属接触と腐食維持費を比較 |
設計計算のミニ例|アルミ部品をMg合金へ置換
密度が2.70→1.81 g/cm³であれば、同一体積の質量は約33%減ります。しかしヤング率が70→45 GPaになると、同一断面での弾性変形は約1.56倍に増える可能性があります(荷重・支持条件を同一とした概算)。「軽量化したい」からといって材料だけ置き換えず、リブを含む断面形状・ボルト締結・固有振動数も再計算してください。
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よくある質問(FAQ)
マグネシウム合金はアルミより軽い?
はい。同じ体積なら代表的なMg合金はAl合金の約3分の2の質量です。ただし同じ強度・剛性を満たす完成品で比較してください。
AZ31BとAZ91Dの違いは?
AZ31Bは主に板・押出などの展伸材、AZ91Dは代表的なダイカスト材です。合金組成・製法・成形性・強度や欠陥管理条件が異なります。
AZ91DとAM60Bのどちらが強い?
引張強さの代表値だけでは一律に判断できません。AZ91Dは鋳造性と強度、AM60Bは延性・衝撃特性を重視する候補です。部品厚み、衝撃、疲労を含めた試験で選びます。
マグネシウム合金は簡単に燃える?
完成した大きな塊状部品と、切削で生じた微細な切粉・粉じんでは火災リスクが異なります。特に細かい切りくず・粉じんの着火に注意が必要です。設備・消火設備・作業管理を前提に加工計画を立てます。
なぜマグネシウム合金は腐食しやすい?
Mgは電気化学的に活性で、塩水や異種金属との電気的接触があると腐食しやすくなります。表面処理と絶縁・排水性を一緒に設計します。
まとめ|マグネシウム合金を選ぶなら「軽さ+形状+表面+安全」
マグネシウム合金は軽さと薄肉複雑形状の一体化に価値があります。AZ31B(展伸材)、AZ91D(ダイカスト)、AM60B(延性を考慮したダイカスト候補)の違いを踏まえ、重量だけでなく剛性・疲労・温度・腐食・締結・加工安全を設計条件として明文化しましょう。
参考資料・関連記事
- 日本産業標準調査会(JISC):マグネシウム合金の現行JIS規格本文を確認
- International Magnesium Association:マグネシウム合金の基礎知識と産業用途
- 機械設計1|アルミニウム合金
- 機械設計2|銅・銅合金
- 機械設計3|鉄・鉄合金
- 機械設計4|チタン・チタン合金
物性数値は室温付近の代表的な参考値であり、個別材料・製品の保証値ではありません。最新JIS原文、材料メーカーの仕様書・ミルシート、設備安全手順、使用環境を必ず照合してください。
